これからは個人やスモールビジネスが強みを発揮していく。 社会的ピンチをチャンスにしていくのにまずは、 「黙って小さくわが道を進み始めること」/株式会社それからデザイン 代表取締役 佐野 彰彦
ITサービス開発者
株式会社それからデザイン 代表取締役 佐野彰彦
仕事への愛にPRが掛け合わされれば「POWER」になる。自分の仕事に誇りと自信、そして何より「愛」を持つハートフルな愛すべき仕事人たちを取材する「LOVE×PR=POWER」プロジェクト(略してL.P.P.P)。いまだからこそポジティブに、いまだからこそ力づよく、これからに向かって歩み始めている彼らの温度をお伝えしてまいります。
今回のゲストは、スモールビジネスを支援するクリエイティブカンパニー、株式会社それからデザイン代表の佐野 彰彦さんです。誰でも簡単に自分のホームページを作成し運営することができるサービス、「とりあえずHP」を展開しており、その使いやすさからユーザーの口コミを通して年々事業を拡大しています。ITが台頭しはじめた初期の段階からクライアントのビジネスをウェブやデザインの力でサポートしてきた彼の考える今後の「スモールビジネス」の可能性とその始め方についてお話をお伺いしてきました。
■小さくて無名な価値が正しく必要とされる世の中へ
―株式会社それからデザインがスモールビジネスに力を入れてサポートしている理由って何ですか?
佐野:私たちはもともと企業からウェブサイトの制作を受託するデザイン会社でした。当時は花形といわれる大手企業の案件に関わっていくことに注力していたこともありましたが、相見積もりやコンペが前提の仕事も多く、クライアントとの関係にジレンマを感じることも多々ありました。でも僕たちが考えるデザインって、「いいものをちゃんと伝えたい人に伝えるための手段」なんですよね。だから「心から伝えたいこと」を胸に秘めている「アツい方々」と信頼関係を築きながら仕事をしたいって思うようになりました。結果として、中小企業や小規模事業を営むビジネスオーナーとの仕事が増えていくことになったんです。
一方で、小規模な事業を営んでいる人、これから事業を立ち上げようとしている人は、どうしてもデザインやウェブに対して用意できる予算が限られるので、大手企業と同じようなやり方では私たちのビジネスとして成立しないことも多い。
そこで、いわゆるウェブサイトの制作を「受託」するのではなく、小規模事業を営む人が自分の手で情報を発信するためのツールを開発し、「支援」をサービス化できないかと考えるようになりました。
実際に、私の周囲にも、小さな飲食店を経営する友人や、ダンス教室を主催する知人がいましたので聞いてみたところ、「プロにウェブサイトの制作を頼むと高いし、少し更新するだけなのに時間もかかってしまう」という声が聞こえてきました。
そして、「もし自分でできるのなら、自分でウェブサイトを制作したい」というニーズがあることもわかってきました。そのニーズに応えるために開発したのが「とりあえずHP」というサービスになります。
―受託でのウェブサイト制作からサービス開発に切り替えたタイミングはいつだったのですか?
佐野:当時は受託の仕事がメインでしたので、仕事が少し落ち着いた時などに、創業メンバーでもあるプログラマーと二人でサービスの開発を進めていましたね。当時は昼夜関係なく働きました。自社のサービスを開発している時に感じるわくわくや喜びのほうが苦労よりも断然大きかったです。そしてどうにか「とりあえずHP」の原型が出来上がると、試験的に知人友人に使ってもらってフィードバックをもらいました。ある程度の手ごたえを得てから、大々的に告知することなく静かにサービスの展開を開始しました。
受託でウェブサイトを制作していた時とは、全く勝手が違うのでわからないことだらけでしたが、とくに大きな販促はせずとも、利用者数は徐々に伸びていきました。自分たちが開発したサービスが広く行き届くことに対して喜びもありましたが、本当に手探りでしたので、必死に改善を繰り返していきました。結果的に、ローンチしてから10年以上経った今、累計で19,000件以上の方に利用していただけるようなサービスに成長しました。
―自分でウェブサイトを作成できたとしても、ビジネスを成功させることは簡単ではないと思います。スモールビジネスの成功のためには、何が大切だと思いますか?
佐野:そのサービスの持つ「強み」や「特徴」、「ストーリー」をいかにわかりやすく伝えていくか、が大切だと思います。
ただ、確かにおっしゃる通りで、ウェブサイトのつくり方をマスターすることと、ビジネスを成功させることは同じではありません。ですので、私たちは、ただ「とりあえずHP」を提供するだけではなく、マーケティングやブランディングの支援、ウェブサイトのコンテンツ制作のサポートに力を入れています。第三者の視点からのアドバイスやサポートを通して、そのサービスが持つ強みや特徴を、ビジネスオーナー自身が理解し、自発的にアウトプットしていただけるようになることを目的にしています。
スモールビジネスの場合、必ずしも「万人に広く受け入れられる」必要はなくて、「自分の商品やサービスを届けたい人」に存在を知ってもらって、必要な分の売上が出るようになればそれでいいんです。だからこそ僕たちもビジネスオーナーの夢や目標に伴走する形でサポートができるようにしています。
■「原体験」をもとにまずは黙って小さく始めてみる。ぶれない軸を持つ人はやっぱり強い。
―今回のコロナをきっかけに働き方そもそもを見直す動きがさらに活発になってきましたよね。スモールビジネスって今後ますます増えていくのではないかなって思うのですが、サービスの利用者は増えているのですか?
佐野:そうですね。大手有名企業で副業が解禁になったり、コロナの事態になる前から少しずつ社会の常識が変化している風潮はありましたが、さらに加速したなと思っています。世の中の変化に合わせて、我々のサービスの需要もさらに増えてきたなって思います。
―スモールビジネスをしていきたいと思ってもまだアクション出来ていない方、どうアクションしていいかわからない方もきっと多いと思うのですが、そういう方々は今後どうしていけばいいと思いますか?
佐野:何をするにしてもアクションする前に考え込むのではなく、まずは小さくスタートさせてみることから始めてみたらいいと思います。考え込んでしまうとリスクばかり思い浮かんでどうしても腰が重くなってしまいますからね。エイってまずは一歩踏み出してみる思い切りって実は大切なんじゃないかなって思います。最初から大きなことをしようとするのではなくて、小さく始めることがポイントです。PDCAサイクルって言葉があると思うんですけど、僕は「DDDD」だと思っています。まず「Do」です。やってみる、そしてそこで見えてきた課題とか新たな視点をもとにさらにやる。世界的に評価されているサービスや、イノベーションとされているビジネスも、実は小さな試行錯誤の繰り返しがベースにあります。
―自分は何をしたらいいかわからない、やりたいことが見つからない人っていると思うのですが、そういう場合はどうしたらいいと思いますか?
佐野:苦手なこと、嫌なことをDoし続けるってかなり苦しいと思うんです。仮に週休2日の会社で働いているとして、一週間のうち5日、40時間以上の時間を「苦手だな、嫌だな」って思うことに割くのって、もったいないと思います。
コロナ禍って、社会的、大局的には「大ピンチ」かもしれません。しかし、個人としては、その期間を自己の内面を見つめなおしたり、過去の蓄積を振り返ってみたりするのに有意義に使うこともできるのではないでしょうか?
そして、あまり考えすぎず、悩みすぎず、まずは何かしらやってみることがおすすめです。
様々な業界、多数のスモールビジネスを支援してきて思うのは、自分の「原体験」からはじまっているビジネスは、とても強いということです。
たとえば「とりあえずHP」のご利用者には、「ペット用の車椅子製造」で成功されている方がいらっしゃいます。そのビジネスのきっかけは、ご自身で飼っていた犬が事故で足を悪くしてしまったことです。そういう方々は、どんな逆境でも一心不乱にわが道を進まれていきます。もちろん苦労もあるけれど、すべて「自分ごと」として受け止め、工夫を重ねていきます。そして、そのような強さに人は魅せられ、購入者やファンが増えていき、長く愛される商品やサービスになっていきますね。
<これまでに2冊の書籍を発行している>
何かをしたいけどどうしたらいいかわからない、という方は多くいると思います。現状を変えたいけどどうしたらいいかわからない、と途方に暮れている方もいるでしょう。何をするかのヒントはアンテナを張ることで得られるかもしれませんが、答えは実はご自身の中にあるはずです。ぜひ、まずは気軽に小さくアクションしてみてほしいです。
周りの人に宣言する必要もないと思います。黙って小さくアクションして、考えながら走ってみることで今までとは違った世界がきっと見えてくるんじゃないかなって思います。
コロナをはじめ、いろいろ大変なこともあるけれど、ITが進んでいる今、個人が小さく何かをはじめるのにはとてもよい時代でもあると思います。
佐野彰彦(さのあきひこ)
ITサービス開発者/株式会社それからデザイン 代表取締役
「小さくて無名な価値が、正しく必要とされる世の中をつくる。」をミッションとし、「とりあえずHP」というスモールビジネスオーナー向けのホームページ作成ツールを開発・提供している。「とりあえずHP」は、2009年にサービスをローンチ、10年を超えて今も尚、成長中。「自分らしく生きようとしている人たち」のサポートを、デザインやプログラミング、サービスを通じて実施している。また、プライベートでは音楽家でもありレコード収集が趣味の1つ。コロナ以前はDJイベントを主催することも。
インタビュー聞き手:WORKING FOREVER
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